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第38回 地政学的リスクが思わぬところに~(2013年9月6日)

原油の値段が上がってるみたいねえ。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油はずっと110ドル近くよね。

そうだねえ。エジプトの政治も不安定だし、米国もいつシリアへの攻撃に踏み切るかわからないからね。

でも確か、WTIって、中東の原油価格じゃないのよね?

そうだよ。米国のテキサス州やニューメキシコ州で産出する原油の相場なんだ。この原油の産出量は、全米で消費される原油の1%ちょっとなんだけど、先物市場での取引量が多いから、WTIの相場は、世界の原油市場に大きな影響を与えるんだ。

でも中東の情勢が不安定になると、どうして米国産の原油価格が上昇するの?

一言でいうと、中東からの米国への原油の供給が減って、それにともなって米国産の原油価格も上がると見る人が多いからだよ。

世界中のいろんな動きが、原油価格に影響するのね。遠く離れた、シリアの情勢で、米国の相場が上がるなんて…

今回のエジプトやシリアみたいな理由で価格が変動するリスクを、地政学的リスクっていうんだ。地域紛争や、テロの脅威が代表的だけど、今の中東みたいに政治的に不安定になることも、相場が上昇する要因になるね。今回は上昇するリスクだけど、何らかの事情で、相場が急落するのも、リスクだよ。

リスクって、危険って意味じゃないの?

「リスク」を日本語に訳すのは難しいけれど、経済の話では、不確実性くらいの意味だね。決して、英語で習う危険という意味じゃないよ。不確実性があるから、相場が動いて、そこで一儲けする人もいるからね。

原油相場が変動するリスクって、他にはどんなものがあるの?

どこか大きな産油国で、生産不調があって供給が減ったり、投機のために原油相場で、大量の買いや売りがあることも相場が変動する要因だよね。

ふうん。でも原油が高いなら、例えば発電の燃料なんかは、天然ガスに変えちゃえばいいんじゃない?

確かに、日本が大量に輸入している液化天然ガス(LNG)は高いといっても、まだまだ石油系の燃料と比べたら割安だよね。でもガスも必ずしも安泰でないんだ。

どうして?ガスと石油って、全く別のものでしょう?シリアの地政学的リスクも関係ないはずだし。

そうなんだけど、問題はガスの価格の決め方にあるんだ。ニューヨークとかロンドンで取引される天然ガスの先物は、ガスの熱量を単位として取引されているんだけど、長期契約の場合は、パイプラインのガスも、LNGも、原油価格に連動する価格で決めることがほとんどなんだ。

じゃあ、産ガス国で問題がなくても、産油国の政情が不安定になると、ガス価格も地政学的リスクを被るのね。

そうなんだ。よくよく考えると、違う燃料の地政学的リスクを受けるっておかしいよね。でも、歴史的にLNGは原油の代替の燃料という性格が強かったから、いまでも原油に連動する価格で、長期契約が結ばれているんだ。

長く続いてきた商慣行は、そう簡単に変わらないのね。

一部、米国の天然ガスの先物に連動する価格に変えようとする動きもあるけれど、まだまだ少数派だね。

でも今の長期契約だと、上がったのは原油価格なのに、連動するLNGの輸入価格も上がるから、ガス代が上がるということになってしまうのね。

そういうことだよね。円安も続いているから、家庭への影響も大きいよね。

思っている以上に、原油価格の動向って、いろんなところに影響が出るのね。

そうだね。
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