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第66回 (2019年4月24日)

 今年初め、吉村芳生さんの絵画展を訪れた。新聞紙面を手書きで正確に写し取った上に、自らの顔を重ね合わせて描いた「新聞と自画像」など、写真や新聞を細密に表現する鉛筆画で知られる画家である。

 私は1枚の下絵に目を奪われた。描く対象の写真を拡大したプリントの上に鉛筆で2.5mm四方の方眼を引き、一つひとつのマス目に色の濃淡によって分類した1~9の数字を入れる。それをもとにマス目を斜線で埋めていくという手順だ。気の遠くなるような作業が一目で分かる。

 画家がこの手法に辿り着いたのは「作者の存在を極力失くし、対象を描写したいとの思い」からだったそうだ。下絵に付された夥しい数のマス目、方眼の痕跡が残らない写真のような完成画を前に、画家の狂気や執念に触れたようで目が離せなくなった。

 「人が気持ちを込めて創造する作品で、作り手の存在が滲み出ないものはないのではないか」。吉村さんの作品をイメージする度、私はそう思う。

 リムが提供するレポートは「情報の正確性」が最優先される。一方で、取材先に真摯に耳を傾け、情熱を持って一本の記事を紡ぐことは、記者自身の視点や独自性も問われると感じている。

 いまの仕事に就いて1年。技術も経験も未だ遠く及ばないが、いつか一人前の記者になりたいと思えるようになっただけでも、私はジャーナリズムの世界で第1歩を踏み出した気がする。原稿用紙のマス目を埋めるべく、文字と格闘する一日一日を大切にしたい。

(寺内)

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