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第7回 (2014年7月16日)

 「1万9,965円」。これは、我が家が支払った今年2月におけるガス料金。家族4人による金額としては、世間一般に比べやや高い方だと思う。厳冬の影響で、暖房費が嵩んだことが要因となり、過去最高水準を更新し、2万円に迫る水準へ達した。家計にとって痛手ではあるが、生活必需品として使用を続けざるを得ない。
 そのガス料金に今、注目が集まっている。米国で生産されるシェールガスに由来したLNG(液化天然ガス)が我が国に流入する2016年以降、大幅に切り下げられる可能性が出てきている。昨今、新聞紙上をにぎわしている話題だ。
 日本では、2011年の東日本大震災の後、殆どの原子力発電所の稼働が停止に追い込まれ、代わりに天然ガスを使用する火力発電所への依存度が増した。必然的に、ガスのもととなるLNGの輸入は急増。この影響もあり、2013年度における貿易赤字は、11兆円を突破するなど過去最大の水準へ膨れ上がった。国会では、LNGの輸入増が貿易赤字の主要因としてやり玉に挙がり、ここ数年、官民一体となり、LNGの輸入価格を抑える動きが加速している。
 これらの問題を解決する救世主として米国産シェールガスをもとにしたLNGが現れた。これらシェールガス由来のLNGの大半は、米国における天然ガスに連動した価格で取引される。現に日本の電力、ガス会社の一部も、この米国における天然ガスの価格を指標にLNGを購入する予定だ。この天然ガス価格が、通称「ヘンリーハブ価格」と呼ばれるもの。ヘンリーハブは、米国のルイジアナ州にある天然ガスの集積地(ハブ)をさし、そこで供給される天然ガスが、ニューヨーク商品市場で取引されている。このヘンリーハブのガス価格は、日本の電力会社や都市ガス会社が輸入しているLNGに比べ「現時点では」極めて低い水準に推移している。このため、日本政府は、シェール由来のLNGの割合を増やせば、日本全体のLNGの輸入価格が大幅に切り下がると期待を寄せている。
 しかし、ヘンリーハブが、この先も低い水準に留まるか否かは、誰にもわからない。「相場は水物」と言われるように、いつなんどき、ヘンリーハブが急騰するかはっきりしない。シェールガスは、従来型のガス田に比べ枯渇の進行が速いうえ、採掘時の環境問題もクローズアップされる。米国政府の方針転換があるかもしれない。日本の電力、ガス会社は現状、原油価格に連動した方式でLNGを輸入しているが、シェール由来のLNGが未来永劫、この価格を下回って推移するかは不透明だ。数年前まで、米国がガスをはじめとしたエネルギーの輸出国になるなど、誰が想像しただろう。日本国民の一人として、日本のLNG輸入の価格が切り下がることは喜ばしいことだが、その「期待」は、あくまでも現状をもとにしたものであることを認識しておく必要がある。
 翻って、我が家のガス料金は、いつ大幅に切り下げられるのか。一時的に値下がりしてもぬかよろこびはできまい。再値上げを想定して、節約に励むしかなさそうだ。
(柳)

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