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第54回 (2018年10月24日)
『まんが日本昔ばなし』そのものが昔話に。
数年前だったかと思うが、NHKの朝の情報番組に、懐かしの名作アニメ「まんが日本昔ばなし」のナレーションで有名な女優がゲスト出演。彼女は同アニメにまつわるエピソードを暖かく語った…。が、しかし、番組の最後、キャスターが頭を下げ、「番組の中で体の不自由な方や外国人の方々を傷つける言い方がありました。深くお詫びいたします」と述べた。女優のコメントの中に、いわゆる「放送禁止用語」が含まれていたためだ。
放送「禁止」用語と呼ばれてはいるが、実際には当局から禁止されているわけではなく、あくまで商業メディア上の「自主規制」だ。しかし、この「NGワード」は急速に増殖中だ。近年「まんが日本昔ばなし」が再放送されない理由は、この「放送禁止用語」が数多く使われているためとの指摘もある。だとすると、一定の単語にとどまらず、作品そのものがメディアから事実上消えたことになる。つまり、「まんが日本昔ばなし」が存在したことそのものが、昔話になってしまったのだ。同様の理由で、過去の優れた映画、文学などが現在進行形で急速に失われつつある。
しかし、私自身はこの規制を批判できない。なぜなら、私こそ、毎日無難な表現を選んでしまっている記者の一人だからだ。最近、各国の政府によるジャーナリストに対する弾圧が話題になるが、それと同じくらいに自主規制による表現の制限は怖いことなのかもしれない。
(橋本)
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