海外の電力事情パート2(2014年12月11日)

成功例

1. ノルドプール(Nord Pool=ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマーク)
「自然独占(※1)」から自由化へ
1.1. 経過
(1)1991年   ノルウェー、エネルギー法可決により電力市場自由化・電力事業再編
(2)1993年   ノルウェー、電力取引所Statnettを開設
(3)1996年   ノードプール開設(旧Statnett) :ノルウェーとスウェーデン(1月に電力市場を自由化)の共同市場
(4)1996年 6月 フィンランド、1997年7月にデンマーク西部地域、2000年10月にデンマーク東部地域が相次いで加入

1.2. スポット(随時)取引
(1)前日に翌日物取引する(実需に基づいた取引=現物取引)、1時間単位で価格を設定(システム価格)
(2)発電会社、最終需要家、配電会社、トレーダー(リスクを取る売買業者、利ざや目的)やブローカー(リスクを取らない仲介業者、手数料収入目的)といった数百の企業が参加 (ブロック入札 ※4)

1.3. 取引量
(1)全取引力量の70%以上

1.4. 電力供給
1.4.1. 商品(電力)の流れと契約(お金)の流れは別々
(1)電力(商品の流れ):  発電会社→送電会社→配電会社→需要者
(2)契約(お金の流れ):  需要者→小売会社→ノルドプール→発電会社
1.4.2. 発電と小売
(1)複数の会社が競争 (価格やサービスを競い合う)
1.4.3. 送配電
・法定独占 (送配電設備は「ボトルネック設備(※2)」。二重投資は非合理。重要なのは設備利用の公正・公平性)
 送配電料金=当局の規制に則り、送電会社と配電会社が設定
・需要者の支払う電力料金 =電力の本体価格 + 送配電料金 + 税金

1.5. 電源構成(ノルドプールが完成しつつあった1999年・設備容量ベース)
火力 水力 原子力 風力 電力輸出入
ノルウェー 1% 99% - - 豊水期=輸出国、渇水期=輸入国
スウェーデン 6% 48% 46% - 輸出国
フィンランド 47% 22.1% 31% - 輸入国
デンマーク 94% - - 6% 輸出国
(ロシアから純輸入、ドイツへ純輸出)

2. ノルドプール以外の電力取引
2.1. 長期契約の相対取引

2.2. リアルタイム市場
2.2.1. 独立系統運用機関 (Independent System Operator:ISO) (電力会社から独立した機関)
2.2.1.1. リアルタイム市場を統括
当日に過不足分の売買を行って需給を最終的に需給・周波数を調整する

2.2.1.2. 役割
「①需給の調節」、「②電力の質を維持」、「③送電のコストを最小にする」ためにさまざまな系統運用を行う

2.2.1.3. 独立の理由
(1)情報の遮断
系統運用機関は市場参加者の発電量と受電量を知ることが可能。各発電設備がどのような価格の時に稼動されているかを知ることも可能。相対取引を行う発電会社にとって、他の発電会社に知られたくない情報。系統運用機関が特定の発電会社と結びついていれば、その発電会社が他社の情報を得ることになり、長期契約が不平等なものとなる。したがって、系統運用機関と電力会社の間で個々の発電所に関する情報を完全に遮断する必要がある。そのためにISOは、会社分割された中立的な系統運用機関として設立されている。

(2)会計分離
アンシラリーサービス(※3)費用だけを抽出して電力市場参加者に公平に負担させる必要。もし一つの電力会社が系統運用も発電も同時に行っており、両部門が分離されていなければ、自社の営業用の費用をアンシラリーサービス費用の名のもとに負担させてしまう可能性がある。これを防ぐためには、アンシラリーサービスにかかっている費用を電力会社の発電部門が自社の電力販売のためにかけている発電費用と明確に分離する必要もある。

[用語]
※1 自然独占
自然条件や技術的特性によって,競争が成立しにくく,必然的に独占状態になる市場。 規模の経済(もしくは範囲の経済)が発生しやすい電力などの公益産業に多い特性。 巨額な固定費用や投資額を必要とする産業では、新規参入が困難。また、固定費用の大きな市場で淘 汰された企業の土地や工場などの設備は、他の用途に転用することが困難、もしくは転用可能でも時間を要する

※2 ボトルネック施設
あるサービスを供給するのに不可欠であるが、投資額が巨大になる場合や技術的な理由などから新規参入。 事業者が自ら整備・創出することが困難な施設や資源をいう。 (都市ガス:導管網、空港:発着枠、水道:送水導管網、乗り合いバス・タクシー:駅前広場の利用権、鉄道:線路)
電力のボトルネック設備=送電・配電網 (電力の 既存電気事業者の独占状態にある。新規参入事業者が新たに送配電網を持 つことは考えにくい)

※3 アンシラリーサービス
瞬時のきめ細かさで需給バランスを保ち、一定範囲内の周波数を維持することにより電力系統の品質を確保すること。 現在、日本では一般電気事業者が実施

※4 ブロック入札
複数時間帯をまとめる売り入札

失敗例

1. 電力自由化の挫折:米カリフォルニア州の電力危機
米国のカリフォルニア州で電力自由化後、大手配電会社2社が計画停電に追いこまれ、約100万世帯に影響
※加州の民間大手3社
Pacific Gas & Electric(PG&E)、Southern California Edison(SCE)、San Diego Gas & Electric(SDG&E)

1.1. 経過1-自由化導入
(1)1990年代初頭 不況 加州では電気料金が他州と比べ50%割高 (自由化による料金引き下げの期待)
(2)1995年 5月   加州の規制当局である公益事業委員会(CPUC)が電気事業再編計画を策定、同年、州議会により承認
(3)1996年 9月   ウィルソン州知事が再編計画に同意し、法案成立
(4)1998年 3月   加州など15州が小売完全自由化 (需要家が供給業者を選択することが可能)

1.1.1. 卸電力取引市場の導入とISOの設立
(1)公設の電力取引市場(California Power Exchange:PX)を設立
(2)民間大手電力3社に対して、最長4年間の時限措置としてPXへの電力売買を義務づけ(発電会社との結託を防ぐ)
(3)3社以外の新規参入事業者は取引所からの調達に加え、相対取引が可能(3社と新規業者の間の差別的な扱いは、大手3社の市場支配力の抑制が目的)
(4)独立系統運用者(Independent System Operator:ISO)を設立。送電系統を一元的に管理し、公平な送電系統へのアクセスと確保が目的。大手3社の系統運用機能を移管(送電線は大手3社が保有継続)

1.1.2. 小売価格の凍結
(1)電力自由化による回収不能費用(ストランディド・コスト)の回収を認める代わりに、同費用の回収を終えるまで、もしくは2002年3月までのいずれか早い時期まで小売価格を凍結
(2)自由化決定時には、卸電力価格が2002年までに20%程度低下すると見込まれていた。この見通しを前提に、大口需要家を含めた全需要家に対して小売価格を凍結、差額(マージン拡大)を回収不能費用の回収に充当することにして、政治的に決着(激変緩和措置)
(回収不能費用=電力自由化前は料金算定で支出コストとして認められていたが、自由化で費用回収が不可能になる費用。発電資産や事業リストラの費用など)
(3)小売価格固定=住民の不安に対する配慮の面もあった(自由化で価格高騰?)

1.1.3. 大電力会社による発電所売却
(1)規制当局の州公益事業委員会(CPUC)が火力発電所の半分の売却を要請=3大電力の市場支配力を緩和する目的
(2)3大電力会社は火力発電所の大半を自主的に売却(3大電力会社はPX以外に電力調達の手段がなかったため、発電事業者による売り手市場)

1.2. 経過2-卸価格上昇(2000年夏~2001年冬)
(1)CPUCは、州内の電力需要について漸増を予想=新規の発電所を建設する時間的な余裕があると考えていた
(2)実際は、景気拡大を受け電力需要が予想を上回るペースで増加。2000年夏には猛暑によって卸売価格が高騰。12月以降再び電力需給がひっ迫し、価格はさらに上昇。2001年に入り、状況はさらに深刻化し、輪番停電に追い込まれた

1.2.1. 停電の背景
(1)当時、定期検査などによって発電所の運転停止が重なった
(2)州の南北をつなぐ送電線の容量が不足していたため、電力の融通に支障をきたした
(3)固定小売価格: 卸売電力市場の価格は市場で決定する一方、小売価格は凍結。電力が不足しても、小売価格は上昇しないので需要家は消費を抑制しようとしなかった(大工場など大口需要者に消費量を計測するメーターを設置しておらず、卸価格が高騰している時にも、節電を促す手段がなかった)
(4)発電業者は発電所の新設に消極的 (州の厳しい環境規制の下では、建設コストが高い)
(5)系統信頼度維持に関する責任の所在が不明確
・最終的な供給責任が不明確
・系統信頼度維持のための市場参加者への義務が不完全
(注:倒産したエンロンの関係者の発言などから、一部市場参加者が意図的に供給不足を作り出し価格操作をしていたという見方もある)

1.3. 経過3-破産
2001年4月 PG&E社が連邦破産法の適用を申請。州政府は、最大100億ドルの州債を発行し、電力を代理調達(州民負担)

1.3.1. 破産の背景
(1)小売価格凍結:電力不足時に高い卸価格で仕入れ、固定の安い小売価格での販売を余儀なくされ、財務状況が悪化
(2)市場変動リスクに対する無防備:電力の購入を前日スポット市場でのみで許され、発電会社との相対取引が不可。スポット市場の価格変動リスクをヘッジできなかった
(3)予備電力市場の価格の上限が設定されていたため、電力が不足したときに供給する予備電力市場のための発電所増設のインセンィブがなかった

1.4. てん末
1.4.1. 自由化の停滞
自由化が始まってから、24州とワシントンDCで自由化法案や規則が制定された。その後、2000年から2001年にかけて加州で電力危機が発生し、同州は2001年9月に小売競争を中断。アーカンソー州およびニューメキシコ州は、自由化法を廃止。オクラホマ州とウエストバージニア州は、自由化を無期延期

1.4.2 その後の自由化
(1)2013年10月現在、50州のうち13州とワシントンDCで小売の全面自由化を推進。このほかオレゴンとネバダ、モンタナ、バージニア、ミシガン、カリフォルニアの6州が部分自由化(大口需要家に限定)を実施
(2)加州: 小売料金の引き上げ、卸電力取引の一時閉鎖・再開後の監視の強化、送電組織の改革 → 2010年に家庭用以外の需要家を対象に小売自由化を再開(自由化の上限枠を自由化中断前の水準に設定)
(3)ミシガン州: 2008年に自由化法改正(自由化枠を電気事業者の前年の販売電力量の10%に限定する変則的自由化)

2. 失敗の教訓
卸取引の仕組みや組織分離の手法などといった経済的な要素だけでなく、安定供給や需給調整、設備要件など技術的な側面を含めた制度設計が電力制度の改革には不可欠

参考文献・資料

「電力競争市場の基本構造」 八田達夫(経済産業研究所)
「電力自由化」(日本経済新聞社刊) 高橋洋
「競争的市場を導入する電力由化」 木村良ほか16名 (同志社大学 八木匡研究会 資源・エネルギー分科会)
「カリフォルニア州の電力危機とPJMの概要」  矢島正之(電力中央研究所)
「海外諸国の電力改革の現状と制度的課題」 経済産業省資源エネルギー庁 電力・ガス事業部
「自由化モデルの失敗」(スライド5  /23)(資料名不詳)  経済産業省資源エネルギー庁
「電力用語集」 電気事業連合会
「海外における電力自由化動向~PJMとNord Pool を中心として~」  小笠原潤一、森田雅紀
「海外における電力自由化状況とニュービジネス」 (NTT-BTI) 杉浦利之
「米国カリフォルニア州の電力危機(2000-2001年)」  高度情報科学技術研究機構
「海外諸国の電力改革の現状と制度的課題」資源エネルギー庁資料
「ボトルネック施設等の分離(アンバンドリング)」(内閣府国民生活局2002年)
「各国の電気事業(ホームページのデータ集)」 (一般社団法人海外電力調査会)