2023年のLNG相場はここ数年と比べると静かなマーケットとなった。北東アジア着市況の最高値は1月6日に記録した百万英国熱量単位(mmBtu)あたり23.85ドルだった。その後は下落基調が続き、6月2日には約2年ぶりに8ドル台まで下落した。要因として、昨冬の暖冬によってガス需給が緩和したことや、新型コロナによって影響を受けた経済活動の回復が進まなかったことが挙げられる。

上のグラフは北東アジア着相場と、オランダのTTF(Title Transfer Facility)市況の価格推移を表している。天然ガスとLNGは、需給と価格の両面で密接に関連しており、欧州に限らず、北東アジア着のLNG相場も欧州の天然ガス相場に連動する傾向にある。2022年12月頃から欧州のガス不足に対する懸念は杞憂に終わるとの見方が台頭し始め、2023年に入るとTTF市況は下落の一途を辿った。昨冬の欧州と北東アジアは暖冬の影響でガス在庫の消化が進まず、買い控えが起き、相場に下方修正圧力を加えた。
一方、2024年は北東アジアと欧州で、暖冬や高在庫の影響が継続するとの見方が広がっている。日本企業は「強いタイト感を伴うマーケットではない状況が続きそう」と見込む。エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)エネルギー事業本部の白川裕担当調査役も、「2024年の北東アジアのLNG価格は2023年とほぼ同水準になるのではないか」と述べ、年平均15.00ドル前後で推移する公算が大きいとの見方を示した。
ただ、日本企業は「1月以降の気温が予想に反して大幅に低下する可能性は否定できないため、多くの需要家は需給逼迫と相場高騰に対して警戒を続けている」と指摘。またパナマ運河では2023年11月から渇水によって通航規制が実施されており、米国産LNGを北東アジアに供給しにくい状況だ。これに伴い、供給バランスの乱れによる相場上昇が懸念されている。
このほか、中国向けの需要が不透明要因として挙げられている。中国経済が景気刺激策で立ち直ると、エネルギー需要が喚起される。中国は2023年、LNGの輸入量が7,100万~7,200万トンに伸び、世界一の輸入大国の座に返り咲いた。景気回復が遅れ、ロシアや中央アジアからパイプライン経由で輸入された天然ガスや、国産の天然ガスが国内へ供給されていたにもかかわらず、これだけの輸入量を記録した中国がLNGの買い付けを一段と増やした場合、相場の上昇要因になることは疑いない。
また、ロシアのウクライナ侵攻で、欧州向けの天然ガスはLNG換算で1億トン相当の供給量が失われた。ガスの供給余力が限られるなか、2023年は豪州における労働者ストライキや、中東情勢の悪化など、外的なショックで価格が高騰する局面が見られた。こうした脆弱さは2024年も続く見通しだ。「マーケットの供給余力がウクライナ侵攻前に戻ってくるのは2026年ぐらいから。カタールでLNGプロジェクトが拡張されたり、北米で新規のLNGプロジェクトが立ち上がったりする。最終的には2028年までにロシアからの供給減を埋め合わせ、従来の需給バランスに戻る」(白川氏)。

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