新春特集=2026年の原油相場を読む その1 OPECプラスの動向と地政学リスクに関心
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2026年をどう見るか その1 金融機関やシンクタンクのアナリスト6人、さらに独立系アナリストなど、多様な専門家の見方をまとめた。 注目材料として、複数アナリストは「OPECプラスの動向」、「中東、ロシアとウクライナを巡る地政学リスク」、「トランプ政権によるエネルギー政策」を挙げている。26年の原油相場もボラティリティが極めて高いとの見方で一致している。 なお、アナリスト6人による2026年の原油相場予想レンジは下記表のとおり。WTI原油先物は35~90ドル、ブレント原油先物は40~94ドルとなっている。 ニッセイ基礎研究所の上野剛士主席エコノミストは、既往のOPECプラスによる減産縮小などを背景に、需給の緩みが意識され、今春にかけて価格の下振れを見込む。夏以降は季節的な需要の回復や価格低迷を受けた米シェールの減産で価格がやや持ち直すものの、「OPECプラスの減産縮小再開が上値を抑えるのではないか」と述べた。 特に注目している点として、以下3点を挙げた。 ① OPECプラスの減産縮小がいつ、どれくらいのペースで実施されるか ② ロシアとウクライナの和平、さらに和平成立で対ロ制裁が緩和されるか否か ③ AI株やAI投資の行方、失速した場合、景気や投資家心理を通じて原油価格の下押し材料になり得る。 一方、マーケット・リスク・アドバイザリーの新村直弘共同代表は、メインシナリオをブレンド価格60ドル割れ程度までの下落後、年末に向けて65ドル程度まで上昇する展開とし、「コアレンジは55-65ドル」との見方を示した。OPECプラスの増産が想定どおりだった場合は大きく下振れする可能性があると同時に、トランプ減税強化やOPECプラスの増産が出来なかった場合は、供給減少と景気過熱で上振れするリスクもあるという。 さらに、同氏は注目材料として「FOMCが想定どおりの限定的な利下げに留まるか」を挙げる。FOMCの利下げ次第では、依然として原油価格に大きく影響を与えるとみられ、来年度も注目材料とされるようだ。日本の場合は高市政権誕生に伴うリフレーション的な政策が円建て原油価格をかなり乱高下させる可能性があるため、「日本の政策動向には十分な注意が必要」と付け加えた。 三菱UFJリサーチ&コンサルティングの芥田知至主任研究員は、26年度も地政学リスクが相場を左右するとし、一時に比べて緊張は緩和しているが、「ウクライナ、中東、ベネズエラなど地政学リスクは引き続き燻ってといる。米中対立も一時に比べれば緩和しているが、予断は許さないであろう」と述べた。続けて「米中の景気は減速が見込まれるものの、底堅さを保ち、OPECプラスは春以降再び増産意欲をみせる」と予想した。 野村證券の高島雄貴エコノミストは、26年のWTI価格を「50~70ドルのレンジで推移」と予想する。特に25年4~5月につけた55ドルをした抜けするかが焦点になるという。1~3月のOPECプラス増産停止は季節要因によると説明されており、4月以降に増産再開となる公算が大きいことを踏まえると、「WTI原油相場は上半期に50ドル台前半まで下落する可能性がある」とした。 ただ、米シェールオイルの損益分岐点はWTI原油相場60ドル程度であり、60ドルを下回ると米シェールオイルの生産量が伸び悩むことで需給調整が進むという。このため、「WTI原油相場が60ドルを下回って安定的に推移するわけではないだろう」と述べた。 一方、トランプ政権がエネルギー価格の引き下げを目的とし、石油産業などへの補助金や減税策を講じることとなった場合には、事実上の損益分岐点の低下に繋がり得るため、「原油価格の下落が加速する可能性に注意を要する」と警戒感を滲ませた。 エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の野神隆之首席エコノミストはWTI原油価格を60~70ドル、ブレント原油価格を65~75ドルと予想した。ただ、原油価格が上昇しすぎた場合、米国消費者の不満が高まる可能性があり、支持率が低下する恐れがあるため、「トランプ大統領がOPECプラス産油国に対する増産圧力を強化するなど、原油価格抑制を図るのではないか」とした。 一方、原油価格が下落しすぎた場合、米国石油産業の不満を買うことによりトランプ大統領の支持率が低下する恐れがあるため、金融当局に対する政策金利引き下げ圧力の強化等で原油価格の回復を図る可能性がある。「原油価格は強弱双方の圧力に挟まれ、範囲内での変動となり、上昇もしくは下落の持続的傾向は創出しにくい」とも分析した。 また、野神氏は2026年の原油先物相場を見るうえで注目している材料を挙げた。
① ウクライナとロシアの戦闘状態 ② 中東情勢 ③ 南米情勢 ④ 米国パウエルFRB議長の後継候補選出と米国金融当局の政策金利の取り扱い動向 ⑤ 米国と中国を初めとする貿易相手国および地域との間での関税の賦課状況 ⑥ OPECプラス産油国(特にサウジアラビアとロシア)の増減産を巡る動き ⑦ 米国原油生産状況特に原油価格が低水準にもかかわらず経営、操業改善努力によりシェールオイル等の開発・生産活動が活発化するかどうか ⑧ 米国中間選挙結果とトランプ大統領の対応
野神氏によると、特にロシアのエネルギー供給関連インフラに対するウクライナの攻撃をはじめ、西側諸国などによる対ロシア制裁(中国およびインド等の対応も含む)やウクライナとロシアの和平案を巡る仲介者の米国動向などが警戒されるという。さらに、パレスチナ自治区ガザ地区等を巡るイスラエルとハマス等対抗勢力との対立状況、米国とイランとの対立状況、ペルシャ湾におけるイランのタンカー拿捕、イランが支援しているとされるイエメンのフーシ派武装勢力のイエメン周辺海域等における船舶やイスラエルに対する攻撃なども引き続き懸念材料となるとした。 なお、南米情勢としては、米国とベネズエラとの対立状況、特に米国のベネズエラへの攻撃の可能性があるという。 楽天証券経済研究所の吉田哲コモディティアナリストはWTI原油価格を50~90ドル、ブレント原油価格を54ドル~94ドルと予想し、強気との見方を示した。想定している上昇要因を以下に挙げた。
① 米国の利下げ推進による景気回復期待 ② 利下げ推進をきっかけとしたドル安 ③ ウクライナ戦争および中東戦争の懸念継続 ④ トランプ大統領によるベネズエラ、イランなど敵対産油国への制裁強化 ⑤ OPECプラスの自主減産縮小の終了 ⑥ OPECプラスの協調減産の延長決定 ⑦ ブラジルなどの協力憲章配下の産油国が協調減産に参加する可能性があること
吉田氏によると、利下げ観測の後退、ウクライナ戦争や中東情勢が和平に向かった場合など、原油上昇要因に挙げた材料が逆の意味を持つ可能性も出てくるという。特に11月の中間選挙に向け、トランプ大統領は景気回復および株高を演出する可能性が高く、「FRBに対して一段と利下げの圧力をかける可能性がある」と指摘した。 さらに、2014年に併合されたクリミア半島を含む領土の完全奪還を目指すウクライナと、2022年の軍事侵攻後に占領した領土の一部を割譲することを和平の条件とするロシアの間で意見がまとまらない場合、「ロシア産原油の流通が制約を受けた状態が続くことを意味する」とみる。ロシアとウクライナとの緊張関係が原油相場に依然として大きく影響するとした。 また、2026年末までとなっているOPECプラス協調減産の期限を2027年末まで延長する可能性があるという。IMF(国際通貨基金)はOPEC盟主サウジアラビアの財政収支が均衡するために必要な原油価格は90ドル前後と試算している。このため、現在の原油水準を長期間放置することはできないとし、「原油価格上昇をもたらし得る協調減産を延長する必要がある」と睨む。6月前半と11月あるいは12月の合計2回、OPECと非OPEC閣僚会議が開催される予定だ。JMMCが勧告すれば臨時に閣僚会議を実施する場合もある。2026年のいずれかのタイミングで2027年も協調減産を続ける可能性があるとした。 OPECプラスに属しているが、協調減産に参加していない「協力憲章」配下のイラン、リビア、ベネズエラ、ブラジルのうち協調減産に動く可能性が高い国はブラジルとした。「協調減産延長と同時にブラジルの協調減産開始となれば、原油需給の引き締まりもあり得る」と総括した。 ―その2に続く |



