新春特集=バンカー相場、綱渡りの需給バランス
世界的に温室効果ガス(GHG)削減の機運が高まり、脱炭素エネルギーの運用に関心が集まっている。国際海運もその例外ではなく、今世紀のなるべく早期にGHGゼロ排出を目指している。実際、LNGバンカー船、燃料電池船の運用が一部で始まるなど、20世紀初頭から続いた重油燃料一択の時代は終わりつつある。
一方、現時点では本船が使用する燃料のうち99%以上が重油で占められており、本格的な脱炭素エネルギーの運用はまだ先のことだ。市場関係者によると、2030年頃までは重油燃料やLNG、LPGなどのガス燃料が中心となり、供給体制の整備、技術の革新を必要とするアンモニア、水素など脱炭素エネルギーへの移行はさらに10年先とみられている。今後、本船が重油以外の燃料を運用する上での問題は、技術的難易度もさることながら、燃料を安定的に調達することの難しさだろう。その一つ目の理由は、エネルギー脱炭素化の流れが自動車、航空、海運、一般産業と多岐にわたることだ。
また、供給側の進度に対し、需要側の燃料転換が遅れていることも理由として挙げられる。脱炭素化に伴い、エネルギーの需給バランスが崩れ、需給の逼迫、相場の急騰など安定供給が脅かされるリスクが付いて回る。最近では、欧州天然ガス相場の急騰を受けたLNG相場の歴史的高騰が記憶に新しい。LNG価格の高騰は、発電所の代替需要を招き、重油や石炭の市況を押し上げるなど、エネルギー資源全体の市況に大きな影響を与えた。
風力が相場高騰のきっかけに
興味深いのは、今回の相場高騰のトリガーとして風力発電の不振を挙げる声が聞かれる点だ。脱炭素化が進む欧州では、石炭や石油などの化石燃料を運用する発電所が次々と閉鎖され、風力および太陽光発電への依存度が高まっている。環境に対する取り組みが銀行や投資家にとって企業を評価する際の重要な基準となり、GHG排出増につながる設備への投資は難しくなっているからだ。その結果、再生可能エネルギーが抱える問題、つまり天候という予測不能な不確実性を伴うため、天然ガス(LNG)に対する依存度が高くなり、さらには相場変動に備えて高硫黄重油や石炭の需要が高まったというのは何とも皮肉な話だ。
このように、今後の相場予想は困難を極めることが予想される。従来のように原油相場に対する重油市況だけでなく、ありとあらゆるエネルギーの相場、さらに需要家の動向、新しい技術の革新にアンテナを張り続けることが必要とされるからだ。脱炭素エネルギーに移行するまでの数年間、需要家にとって燃料調達に頭を悩ます時期になりそうだ。