北半球では冬の暖房需要が意識され始める時期だが、今冬のエネルギー動向について、リム情報開発の各レポート担当記者が、8月下旬時点での見通しをまとめた。
【LNG】
「季節要因で足元の価格より上昇するが、2021年や2022年ほどは高くならない」。これが今冬のLNG相場に関する、大方の予想だ。LNG価格のかぎを握るのは、欧州の天然ガスの在庫水準。ロシアがウクライナに侵攻した2022年3月以降、ロシア産ガスの供給が大幅に減少した欧州は、天然ガスの在庫を補充するため、LNGのスポット調達に活路を見出した。
2022年はアジアとのスポット争奪戦になり、LNG相場の高騰を招いたが、2023年は年初から暖冬の影響で在庫が高い水準を維持。欧州全体の在庫は、8月中旬時点で貯蔵能力の90%近くにまで積み上がっている。加えて、エルニーニョ現象の発生に伴い、今年の冬は気温の高い日が続き、暖房用のガス需要を抑えると予想されている。
供給面では、大半のLNGプロジェクトが順調に稼働しており、欧州にもアジアにも十分な量のLNGが流入する見通しだ。蘭天然ガス(TTF)市況は8月中旬現在、先物市場では12~2月限が百万英国熱量あたり16~17ドル台で推移しているものの、「冬場着カーゴの商談が実際に始まれば、需給の緩さを反映して、さらに低い水準での取引が展開される」(トレーダー)との見方がもっぱらだ。
豪州のプロジェクトで計画されている労働者ストライキが長引いたり、市場予想に反して大寒波が押し寄せたりしない限り、LNG相場がこの冬に急騰する可能性は薄そうだ。
【LPG】
今冬のLPG供給は、主要生産地である中東、米国とも懸念材料がある。中東では、石油輸出国機構(OPEC)が協調減産を実施し、サウジアラビアは7月より日量100万バレルの自主減産を実施している。これに伴い、サウジアラムコやアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ国営石油(ADNOC)など、多くの中東産ガス社のスポット販売余力が縮小。9月積みでは買戻し需要を抱えるトレーダー勢が供給量を確保出来ず、FOB中東ベースで9月CP対比20~30ドル台のプレミアムでの成約も聞かれた。
世界最大のLPG生産国である米国では、水不足に陥るパナマ運河で喫水制限が課されており、7月30日からは通航船籍数の制限が強化された。これにより滞船が発生しやすくなっており、米ガルフ積みカーゴの極東への到着が1カ月程度遅れると見込む市場関係者もいる。大型LPG船(VLGC)に限らず、年末に向けコンテナ船やLNG船の往来が増えると見込まれ、冬場の滞船はさらに悪化するとの懸念がある。米国産カーゴの供給不安は大きい。
しかし、OPECによる協調減産が今後も続くかは不透明で、パナマ運河の水位がこの先回復するとの予想も聞かれる。需要期を前に、これらの生産国の供給状況に関心が集まっている。
【石炭】
来冬の発電用の一般炭需要は前年を下回る可能性がある。世界的に脱炭素化に対する意識が高まるなかで、二酸化炭素の排出量が多い石炭の利用を敬遠する動きが強まりかねないためだ。財務省貿易統計によると、今年3月以降の一般炭輸入量は前年同月を下回っている。液化天然ガス(LNG)や再生可能エネルギーへのシフトが一段と進むとの観測も聞かれる。
ただ、国内の電源構成のうち、石炭火力は依然として4分の1程度を占める。石炭の国際市況、冬場の気温推移といった諸要因によって、需要が大きく伸びる可能性も残している。また、ロシアからの調達が急減しているため、需要が急増した際の玉確保に懸念を示すプレーヤーもいるようだ。
  
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