LPG=国内流通価格に上昇圧力、国内外の運賃高で
液化石油ガス(LPG)の国内流通価格が、国内外の運賃高を背景とした上昇圧力に晒されている。深刻化する人手不足の影響で国内の海陸物流コストが上昇したことに加え、パナマ運河の通峡制限で輸入にかかる外航フレートコストが高騰した。このため、LPG元売り各社はコスト上昇分の仕切り価格への転嫁に動き始めている。
労働規制強化で国内物流コスト上昇
国内では、2024年度からトラック運転手の時間外労働の上限規制が適用される「2024年問題」の影響で、LPGの国内陸上納入価格が上がりそうだ。ドライバー不足による貨物輸送力の低下に伴い、配送単価の引き上げを求める運送会社が全国的に増えているためだ。
これに伴い、出荷基地から消費地までの運賃を含む届け取引価格は上昇基調を示している。複数のLPG卸業者によると、運送会社はおおむね前年比2~3割の運賃値上げを要求しているという。配送効率の悪いエリアでは、前年比5割高に達するケースもあるようだ。
このなか、一部の元売りは2024年問題対策として、運送会社に好条件を提示しドライバーと車両を自社専用とする契約を結ぶことで、配送能力の強化に努めてきた。しかし、卸業者は元売りと異なり、取り扱い数量が少ないため、タンクローリーの確保や運賃交渉が一段と難しくなっているもよう。そのため一部の卸業者は一定の運賃値上げを受け入れたうえで、元売りから届けベースでLPGを購入するケースを増やさざるをえなくなる、とみられている。
一方、24年度まで時間外労働規制が猶予されてきた陸運業界に対し、内航海運業界では先行して労働時間の見直しが進められ、運賃が値上げされてきた。これを受け、元売り各社はここ数年で段階的に海上運賃を引き上げてきた。元売り1社は23年4月より1~2割の値上げを実施。別の元売り1社も24年4月から同程度の値上げを目指している。
パナマ運河通峡制限で外航フレート高騰
国内の物流コストの上昇もさることながら、元売り各社にとって喫緊の課題となっているのは、LPGの輸入にかかる外航フレートコスト上昇分の転嫁だ。
外航フレートコストは2023年、パナマ運河が記録的な渇水に陥り、船舶の通峡が制限されたことで高騰した(下図参照)。通峡制限下では滞船が発生しやすく、航海日数の増加や短期傭船できる船数の低下を招き、スポットフレートコストの大幅上昇につながった。さらに、パナマ運河ではコンテナ船やLNG船の通峡が優先されているため、LPGを運搬する大型ガス船(VLGC)が通峡するためには、オークションに参加して通峡予約枠を獲得する必要がある。足元のオークションの落札価格は数十万ドルで聞かれるものの、23年11月には400万ドルという高値で落札されるケースもあった。
パナマ運河経由でLPGを輸入する場合の到着日数やコストが不透明となったため、23年11月以降、スエズ運河への迂回ルートを選択するプレーヤーが増加した。しかし、同年12月に紅海で船舶への攻撃が相次ぎ、地政学リスクが高まったことを受けて、米国から極東へLPGを運ぶ航路はパナマ運河経由、あるいはアフリカ南部の喜望峰経由のいずれかとなった。パナマ運河を経由する場合、米国から日本までの航海日数は片道25日前後で済むのに対し、喜望峰経由では40~45日に伸び、その分も運賃コストの上昇につながる。
これらのコスト高を元売りのターム販売価格(仕切り価格)に反映した場合、現在の水準から3,000~5,000円程度上昇すると、一部の市場関係者はみている。元売り1社は早ければ24年4月から、卸業者向けの仕切り価格体系を見直す可能性を示唆した。2024年度のターム契約の交渉が足元で本格化するなか、元売り各社がどのような方針を示すかに注目が集まっている。
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