尿素ショック(上)=尿素水奪い合い、「アドブルー持ってきて」
「とにかくアドブルーを持ってきて欲しい」。
仕入れに困った運送会社の購買担当者がこう懇願した。これに対し大手アドブルー販売業者は冷たくあしらったという。11月以降、運送会社からの注文が殺到し、供給能力を上回った。「平時に散々買い叩いておいて、困ったときだけ泣きつかれても助けられない」(大手販売業者)。
アドブルーはトラックやバスなどに搭載された尿素SCRシステムに使用する車両用尿素水だ。ディーゼルエンジンから排出される窒素酸化物(NOx)を除去する。排ガス規制強化に伴い、日本でも2005年から導入が進み、今ではシステム搭載車両が一般的になっている。
この車両は尿素水を補給しなければ、エンジンがかからない。運送会社にとって尿素水の枯渇は操業停止に直結する死活問題だが、今これが手に入りづらくなっている。
背景には、中国の輸出規制で原料尿素の輸入量が激減したことがある。主に中国からの輸入に頼る丸山化成などの尿素水メーカーが原料不足からグループの製造工場の稼働を停止した。稼働率が下がりエリアによっては一部注文を受けられないメーカーもみられる。
隣国・韓国も事情は同じだ。中国産尿素に依存していたロッテファインケミカルも独自ブランドのアドブルー「EUROX」の製造を止めた。日本総代理店のハタエ石油はEUROXが入荷できなくなり、販売休止に追い込まれた。
これらメーカー、販売業者から尿素水を購入できなくなった需要家は、国内のアドブルー販売シェアの7割以上を占めるとされる伊藤忠エネクス、三井物産プラスチック、日本液炭、日星産業に一斉に発注をかけ、奪い合いの様相を呈した。
しかし、各社とも注文が供給能力を超えており、受注を制限せざるを得ない状況だ。過去1年以上の納入実績がない新規扱いの注文はおろか、既存顧客に対しても過去の実績を上回る量の注文や、輸出や在庫積み増し目的など実需を伴わない注文は原則として受け付けない。
一部エリアのストックポイント(SP)の在庫が枯渇し、過去の納入実績に対し7割、ローリー配送の上限数量を700リットルとするメーカーも現れるなど供給不安が広がった。こうした動きが加速すれば、尿素水不足にさらに拍車がかかる。
今のところフリートサービスステーション(SS)など店頭での尿素水の補給は可能だ。しかし、今後店頭での給水もできなくなる懸念は拭えない。「店頭が『入荷待ち』の張り紙を出し始めたら、いよいよ日本の物流にも支障が出る」と、大手アドブルー販売業者は危機感をあらわにした。
※『CROSSVIEW軽油』第89号(21年11月22日発行)でアドブルー関連記事「三菱ケミカル、新日本化成がアドブルー値上げ、三井物産プラは沈黙」を掲載しています。