尿素ショック(下)=韓国は対岸の火事でない、「尿素水8割国産」は誤解
「日本で使用する尿素水の8割は国産。韓国のような品薄にはならない」。
アドブルーなど車両用尿素水の原料尿素をほぼ全量中国からの輸入に頼ってきた韓国で尿素水不足が問題となった際によく耳にした言説だ。しかし、これには誤解が含まれているというのが、国内の尿素水関係者の常識だ。
一般に尿素は、まず天然ガスや石炭などの化石燃料からアンモニアを作り、アンモニアから製造する。農業用窒素肥料のほかに、工業用としては尿素水や、接着剤などを作るメラミンの原料になる。
「8割が国産」というのは、アンモニアと混同されているとみられている。日本のアンモニアの需要は年間約110万トンで、三井化学、日産化学、昭和電工、宇部興産の4社でそのうちの約90万トンを製造している。
一方、尿素は三井化学と日産化学しか作っていない。尿素はさまざまな製品の原料となるため、両メーカーが尿素水に振り向けている尿素の割合は必ずしも大きくない。
三井化学と日産化学が製造するアドブルーをそれぞれ販売する三井物産プラスチックと日星産業の国内の販売シェアは4割程度とされている。両メーカーが製造する国産尿素の一部が別の尿素水メーカーに流れていることを考慮しても5割程度は輸入尿素だという。
日本が21年1~9月に輸入した工業用尿素の8割程度は中国産とみられる。このことは中国から尿素を全く輸入できなくなった場合、尿素水のおよそ4割が自国で生産できなくなることを意味する。
この不足分を国産尿素だけでカバーするのは、現状の生産能力では難しいという。尿素水メーカー各社は中国以外の国からの尿素の調達に奔走するが、世界的な品薄のなか通常の生産を維持するだけの量を確保するのは至難だ。
中国の輸出規制解除の見通しは立っていない。「もはや民間企業レベルでできることには限界がある」(アドブルーメーカー)と、尿素の調達に関し政府の介入を求める声が高まる。韓国で起きたことは対岸の火事とは言えない状況だ。
※『CROSSVIEW軽油』第89号(21年11月22日発行)でアドブルー関連記事「三菱ケミカル、新日本化成がアドブルー値上げ、三井物産プラは沈黙」を掲載しています。