尿素ショック(中)=尿素不足が深刻、「お金を出しても買えない」
アドブルーなど車両用尿素水が不足した背景には、原料の尿素の輸入量が激減したことがある。
きっかけは天然ガス、石炭価格の世界的な高騰だ。尿素は主にこれらの化石燃料から製造しているが、液化天然ガス(LNG)価格は前年と比べ約5倍、石炭は約3倍となった。尿素の製造コストが大幅に上昇し、採算が急速に悪化。世界の尿素メーカーの工場稼働停止が相次ぎ、供給が引き締まった。
追い打ちをかけたのが、生産国の輸出規制だ。最大生産国である中国は、自国への供給を優先するため、10月中旬から法定検査を強化する名目で事実上尿素の輸出を禁止した。これにより世界の輸出量の約1割を占めるとされる中国からの供給が消失した。
また、中東に次ぐ輸出量を誇るロシアやエジプトも尿素の輸出制限に動いたようで、供給がさらに縮小。最大消費国のインドが自国の農業生産を維持するため、肥料用尿素を大量に輸入したことなどが重なり、国際需給は窒息状態に陥った。
尿素水を製造するための尿素をほぼ中国からの輸入に頼ってきた韓国では尿素水不足が深刻化。物流や公共サービスに支障が生じた。政府が外交ルートを通じ、中国やベトナム、オーストラリアなどから緊急的に尿素、尿素水の確保に乗り出す事態となった。
日本でも尿素が足りなくなっている。中国からの輸入が止まり、稼働の低下、製造停止に追い込まれる尿素水メーカーが出た。国内で尿素を製造する三井化学が定期修理のため28日まで大阪工場の稼働を停止しており、国産尿素の供給力も限られる。商社が11月に持ち込んだとされる限られた数量の尿素に買いが殺到した。
需給の逼迫で、足元の輸入尿素は日本着価格でトンあたり1,000ドルに迫る。前年対比で約4倍となり、過去最高を突破したという。ただ、すでに価格の問題ではなくなりつつあるようだ。「高くても買えるのであればよいが、お金を出しても買えない」(アドブルーメーカー)との悲痛の声が聞こえ始めている。
※『CROSSVIEW軽油』第89号(21年11月22日発行)でアドブルー関連記事「三菱ケミカル、新日本化成がアドブルー値上げ、三井物産プラは沈黙」を掲載しています。