記者の眼記者の眼

第221回 (2023年11月15日)

 初めてヒグマに遭遇したのは4年前のことだった。根室本線と並走する地方道をスクーターで走っていると、道のわきに座り、こちらを眺めているヒグマと目が合った。スピードを上げて脇を通過すると、道路を横切りゆっくりと森の中に消えていった。

 

 この秋、東北地方を中心に熊害(ゆうがい)のニュースが連日伝えられている。秋田、岩手ではクマによる人的被害が過去最高を記録し、市民生活に支障をきたしている。ただ、やがて冬を迎えればクマが冬眠に入るため、世間の関心は薄れていくだろう。そして、根本的な解決策がなされないまま春を迎え、問題が繰り返されることが容易に予想できる。

 

 北海道の場合、早春期に実施される「春クマ駆除」制度が1990年に廃止されたことが個体数の増加につながったと言われている。廃止の理由は個体数が5,000頭程度まで減少し、地域によっては絶滅の恐れが出てきたからだ。現在のヒグマの生息数は推定で10,000頭を超え、「クマ出没注意」の黄色いステッカーは北海道を示すアイコンから現実的な危機感へと変わっている。

 

 本来のメディアの役目とは、一部を切り取って情緒的に騒ぎ立てるのではなく、全体を俯瞰して示すことで、解決の糸口を知らしめることではないだろうか。地球温暖化を巡る議論も同じだ。読者の関心事を取り上げることはもちろん大切だが、ゴールに向かう過程で続けられる地道な努力も拾い上げ、世間に伝えていかなければならないと考えている。

  

(小泉)

 

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