第324回 (2025年11月26日)
10月にすみだ北斎美術館に行き、北斎だけでなく鈴木春信や喜多川歌麿など名立たる浮世絵師の美人画を鑑賞した。大首絵や見返り図といった人物画ばかりのイメージだったが、江戸の風俗や景観、そして繊細な人間関係が描き出されており、閉館時間ぎりぎりまで魅入ってしまった。
なかでも近年再評価されている北斎の娘、応為の作品が一番印象に残っている。北斎に「美人画にかけては応為には敵わない」と言わしめるほどの作品とはどれほどのものなのかと以前から興味はあったが、なるほど観て納得。北斎顔負けの筆致に加え、表情からは感情以外の情報も流れ込んでくるよう。そして何より顔が描かれない人物からあふれる不思議な魅力が私を離さなかった。
北斎という大きすぎる先人がいなければ、応為の名は美人画の名手としてその名声は絶えず轟いていたに違いなかったのだろう。応為の名があまり知れ渡っていないのは、長く北斎の制作を手伝い、自身の作品をほとんど発表しなかったことが大きな要因だが、それでも彼女の作品は現在まで残り、そして人々を魅了している。優れた作品は淘汰されずに時代を超えて人々に影響を与えられるのだと改めて信じることができた。
普段、リム情報開発が発行しているレポートが市場でトピックとなってくれたら、私も世界に何かを響かせたと言ってもいいのかもしれない。いや、さすがにそれは大言壮語だな。
(朝比奈)

