記者の眼記者の眼

第327回 (2025年12月17日)

 日々の仕事では様々な気持ちになるが大半は悔しさが占める。電話に出てもらえず取材が進まない、話し始めても理解が及ばず、なぜあれを聞かなかったのかと電話を切ってから気付き、気持ちを切り替えて電話を掛ける、この繰り返し。

 

 なかでも最大級の出来事は3年前の冬、とある輸入業者との取材だった。北半球への寒波到来で輸出設備の一部が凍結。供給不足が囁かれていた。当然ながら相場は強基調で、今後の見通しはとコメントを得ようとしたところ、取材先から伝えられたのは"隣国と玉の融通について話し合っている"という並々ならぬ緊迫感だった。この取材から事態の深刻さを悟り、当日の記事では輸入国の窮状をまとめ、需給がいかに逼迫しているかを伝えることができたと安堵した。

 

 翌日、その輸入業者が販売入札を開示した。買いポジションと見なされていた彼らからの入札案内に多くのプレーヤーが動揺した。なぜ販売を?という質問が私のもとにも殺到したが、同じく動揺している私が答えられるわけがない。唯一理解できたのは、昨日の記事は彼らが売るに値するまでの相場の上昇に一役買ってしまったかもしれない、ということだった。

 

 記者として中立公平であること。経験を積んでもなお、複雑な市場環境のなかで立場を維持することは簡単ではない。だが、あの苦い経験を思い出す度、自分は今中立かと問い直すことができる。二度と同じ轍は踏まぬよう、この冬のマーケットに挑みたい。

 

(柏原)

 

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