第311回 (2025年8月27日)
今夏、全国各地でクマによる人的被害が相次いで報じられている。知床では登山者が、道南では新聞配達員が、それぞれヒグマに襲われ命を落とすという痛ましい事件が起きた。本州でも、里山に降りてきたツキノワグマによる被害は枚挙にいとまがない。山に入ることがこれほど恐ろしいと感じたのは、記憶にないほどだ。
本来、人間とクマの間には、お互いの生息域に踏み込まないという"暗黙の了解"があったはずだ。自然界に魚や小動物、木の実などの食料が十分にあれば、クマが人里に姿を現す必要はなかっただろう。しかし近年、彼らの生息地で食料が不足し、やむを得ず人間の生活圏にまで出てくるようになったと考えられる。
出没したクマは即座に駆除すべきだ――こうした声が高まっているのも事実だ。ただ、そもそもクマの食料不足の背景には、過度な森林伐採や地球温暖化による生態系の変化、荒廃した里山など、人間側の要因が大きく関わっているとされる。駆除によって事態を収束させようとするのは、またしても人間の都合による対処ではないか。
クマがすぐ近くまで来ている地域の住民にとって、その恐怖は計り知れない。目の前の安全を守るために、駆除が必要となる場合があることは理解している。それでも、根本的な解決を目指すならば、温暖化の抑制や森林保護といった地道な取り組みを、決して疎かにしてはならないだろう。都会に暮らす私たちにとっても他人事ではない。
(二川)