第366回 (2026年9月30日)
人間、年齢を重ねるにつれ、思い込みが激しくなる。特に記者という仕事を長く続けていると、その傾向が強くなるようだ。目の前で起きている現象を素直に受け入れられず、「こうあるべきだ」という固定概念が先走り、頭の中で勝手に事実ができあがる。「これはいつか見た光景だ」という経験則が思考を邪魔し、情報を精査する過程をすっ飛ばし、見て見ぬふりをして結論を急がせる。
私が担当しているLNG市場では、イラン戦争の影響でホルムズ海峡が封鎖され、世界全体のおよそ2割を占めるカタールからの供給が消失するという、前代未聞の事態に直面している。主に発電燃料に使われる季節商品のLNGは、本来であれば夏場や冬場の需要期に価格がピークを迎えるため、期先にかけて価格が上がる「コンタンゴ」を形成するのが過去の通例だった。しかし、今年は足元の供給不安が解消されず、つねに期近の価格が割高で期先にいくほど価格が下がる、常識外れの「バックワーデーション」が続いている。
市場はつねに変化する生き物で、ありえないまさかが起きるのも市場だ。中東情勢の緊迫化で100ドルの大台を突破したWTI原油先物でさえ、2020年にはマイナス40ドルまで大暴落したのだ。目の前で起きているのは、ひょっとしたら100年に一度の光景かもしれない。いままでの経験にとらわれず、まっさらな気持ちで市場に向き合ってみよう。また新たな発見があるかもしれない。それを見逃すのはあまりにもったいない。
(狩野)

