第367回 (2026年10月7日)
2月に米国とイスラエルがイランに対し共同攻撃を開始して以来、世間で「ナフサ」という言葉をこれほど耳にしたのは、石化業界に身を置いてから初めてのことだ。
ナフサ不足を背景に、菓子メーカーがパッケージの印刷に使用する塗料を削減。小売店頭には白黒パッケージのポテトチップスが登場した。メディアは原油からナフサ、石化製品、そして最終製品が作られるまでの過程を解説し、多くの消費者がナフサ不足を実感した。
自動販売機にお金を入れれば、ペットボトルに充填された飲料が手に入る。この安全で清潔な生活は、石化産業が支えているといっても過言ではない。しかし、日本の石化産業は設備の老朽化や内需不足による競争力低下により、設備の統廃合や事業撤退による縮小均衡の道を長らく歩み続けている。
お隣の中国では、ナフサ以外にも石炭やメタノール、エタンなどを原料とする設備を建設し、石化産業を育成。川下から川上へと段階的に垂直統合を進めてきた産業構造は、いつの間にか日本を凌駕した。最新鋭かつ大規模なプラントの競争力は言うに及ばない。
イラン情勢が勃発し、原油やナフサの供給懸念、価格高騰により、経済安保の観点から「ナフサの備蓄在庫を増やすべきだ」との声が、日本の政治家からも聞かれたが、実際には中国からの石化製品の輸入が急増した。
日本にはペットボトルを作るための樹脂工場はもう存在しない。安価な輸入品やリサイクル品に淘汰された。破壊された産業のエコシステムの再建は困難だ。いま考えるべきは、ナフサの在庫ではなく、「この国に何を残すべきか」ではないだろうか。
(北村)

